徹尾徹頭スパイス雑記

映画『エル・ブルニ 革命的な料理の舞台裏』

スパイスは、既成概念を破壊し、新たな味覚の扉を開くための鍵」 ——映画『エル・ブルニ 革命的な料理の舞台裏』は、最先端の料理の実験場におけるスパイスの解体と再構築、そして人間の五感を刺激する天才シェフたちの執念を描いたドキュメンタリー。

ストーリー(※ネタばれを含みます)

料理におけるスパイス。それは単なる味付けの道具ではなく、調理人のアイデンティティや過去の記憶、さらには異文化同士の境界線を曖昧にする象徴的そのもの。

舞台は、かつてスペインのコスタ・ブラバに存在し、「世界で最も予約が取れない」と言われた伝説のレストラン「エル・ブルニ」。過剰な演出やドラマは一切なし。フェラン・アドリア率いるシェフたちが、半年間店を閉めて研究室(ラボ)にこもり、新しいメニューを開発するプロセスを淡々と記録。

伝統的な料理の概念を覆す「分子ガストロノミー(分子調理法)」の世界。厨房に並ぶのは、液体窒素やアルギン酸ナトリウムといった化学薬品のような機材や素材、そして世界中から集められた乾燥ハーブやスパイスの数々。

もう、徹底的に現代的で科学的。彼らはスパイスをそのまま使うのではなく、一度その形態を完全に解体。液状化させ、カプセル状に閉じ込め、あるいは泡や粉末へと姿を変えさせる。

「形」をなくしたスパイスが口に含まれたとき、脳はどのような反応を示すのか。バニラやクミン唐辛子といった見慣れたスパイスの「香り」と「味」の本質だけを抽出し、未知の衝撃を与える徹底的なアプローチ。

印象に残るのは、慣れ親しんだはずの香りが、調理法ひとつで全く異なる感動を呼び起こすシーン。彼らが求めたのは、奇をてらうことではなく、食べる者の意識を揺さぶり続ける体験そのもの。

一見すると極端な実験室のよう。だけど、スパイスの本質が「人間の五感と記憶に直接訴えかける点」にあることは、私たちの日常のキッチンとも地続き。

天才シェフたちが仕掛ける「五感を刺激するスパイスマジック」

「弾けるグリーンペッパーの肉料理」

肉料理の仕上げに、挽きたてのブラックペッパーではなく、あえてホールのままのグリーンペッパーを軽く潰して加えた一品。フレッシュな青い香りと弾けるような刺激が、いつもの肉料理を驚きの一皿に変貌させる。

「ジンジャーとクローブ香る根菜の煮物」

伝統的な和食の根菜の煮物に、ほんのひとさじのジンジャーパウダークローブをプラス。異国情緒を帯びた洗練された味わいへと姿を変え、既成概念を心地よく裏切る。

その他、実験的なアプローチで形を変え、意外な食材と組み合わされるスパイスたち。

形を変え、熱を加えられながら、常に食べる者の意識を揺さぶり続けるスパイスの記憶。最先端の技法とスパイスの本質が見事に調和し、料理の新たな境界線を切り拓いていく軌跡を描いたドキュメンタリー。

映画『マダム・マロリーと魔法のスパイス』

スパイスの一粒一粒の中には、記憶がある」
——映画『マダム・マロリーと魔法のスパイス』は、インドとフランス、二つの食文化の衝突と融合を描いたヒューマンドラマです。

ストーリー(※ネタばれを含みます)

インドの伝統的なスパイス。その物理的なスパイスだけでなく、人生における困難やつらい出来事の比喩としてのスパイスが重要なテーマ。

フランスの田舎町が舞台で、インド料理とフレンチレストランが向かい合うという設定。ストーリーはシンプル。南フランスのどこかの町に、インドから逃げてきた一家が料理屋をオープンするもその場所が問題。
目の前の道を隔てて、ミシュラン一つ星のフレンチレストラン。その女主人…。

インド料理の派手な香りが、フレンチレストランに流れ込んでくる。客が減る。でかい音楽が夜中に流れてくる。
もう、徹底的に対立。市場で食材を取り合ったり、営業妨害すれすれのことをしたり。

「匂い」と「音」と「味」で描かれる「対立する二つの世界」、バターの香りとクミンの香りが激突。
印象に残るのはオムレツのシーン。オムレツが、一番難しい料理だそう。

主人公の天才シェフ・ハッサン。大切にしているのはインドの母親から受け継いだスパイスブレンド。
劇中のセリフ、
「スパイスの一粒一粒の中には、記憶がある」。
彼にとってスパイスは、失った故郷の記憶を呼び戻すための唯一の方法。

マダム・マロリーの心が動くきっかけになるのが、ハッサンが作ったオムレツ。
フランス料理の基本中の基本であるオムレツに、彼はチリパウダーコリアンダーを混ぜる、ほんの少しの工夫。
一口食べたマダムの表情が変わる。

その後、パリに行ったハッサンは、有名な料理人に。トリュフに繊細なソース…、スタイリッシュなモダン・フレンチの世界。
そんなある夜、誰かが持ってきた、ただのインドカレーを食べた瞬間、彼の表情が変わる。

主人公ハッサンが作る「スパイス風味のオムレツ」や「スパイス・ブッフ・ブルギニヨン」

「スパイス風味のオムレツ」

フランス料理の伝統的なオムレツに、スパイス(チリなど)を加えた一品。保守的なマダム・マロリーの心を動かし、両国の文化の架け橋となる。

「スパイス・ブッフ・ブルギニヨン(ブルゴーニュ風牛肉の赤ワイン煮込み)」

フランスの伝統的な煮込み料理を、インドのスパイスでアレンジ。この独創的な創作料理が、若きシェフであるハッサンの才能を証明。

「カルダモン香るクレーム・ブリュレ」

伝統的なフランスのデザートに、インドの代表的なスパイスであるカルダモンをプラスした一品。単なる甘さだけでなく、異国文化を感じさせるスパイシーで魅惑的な風味で、マダム・マロリーをはじめとする審査員たちを唸らせる。

その他、シナモンサフランクローブナツメグといったスパイスを効かせた、タルトや焼き菓子などの伝統的なフランス菓子。

故郷の母の味である「魔法のスパイス」 の記憶がフランス料理の技法と見事に調和した、二つの文化の融合を通じ、互いの心を解きほぐしていく軌跡を描いたヒューマンドラマ。